【板橋／植物】このまちをつくるひと（板橋区立熱帯環境植物館）

ウサギゴケと、ひとつの質問

去年の夏、板橋区にある熱帯環境植物館で娘と一緒に「熱帯植物のミニ説明コーナー」に参加しました。ハエトリグサ、ウツボカズラ、タヌキモ…名前だけでわくわくするような食虫植物たちが、担当の方の解説とともに次々に紹介されていきました。その日集まっていたのは10人ほどの子どもたち。どの子も目を輝かせて話を聞いていて、娘もその中で担当の方をじっと見つめながら、メモ帳を握りしめていました。実はこのとき、娘は「ウサギゴケ」という食虫植物の自由研究を進めている最中で、どうしても聞いてみたいことがひとつあったのです。

しかし、娘はもともととても内向的で、知らない人に話しかけるのはちょっと勇気がいるタイプ。質問タイムになってもなかなか手を挙げられず、モジモジしたまま時間が過ぎていきました。
その様子に気づいてくださったのか、担当の方がやわらかな声で「知りたいこと、あったかな？」と娘に声をかけてくださいました。

その一言に、後ろ姿の娘がホッとしたのが伝わってきました。

うん、と小さくうなずいて、彼女はずっと握りしめていたメモを見ながら質問をやっと口にしました。あのときの植物館の空気、職員さんの優しさ、そして言葉を交わせたときの娘の少し誇らしげな背中は、忘れられない夏のひとこまです。後日、娘はウサギゴケの研究をまとめ、最後までやりきることができました。まだあのときお世話になった職員さんに報告へ行けていないけれど、近いうちに感謝の気持ちを込めてまた訪ねたいと思っています。

このまちには植物と出会える場所があり、言葉を待ってくれる大人がいて、子どもが前に進める小さな瞬間があります。そのことをあの夏、娘を通して教えてもらいました。