先日、合唱の伴奏として練習に参加させていただいた際、印象的な変化を目にしました。小幡さんが発する言葉によって、団員の皆さんの歌声が、短い時間の中で明らかに変わっていったのです。
その言葉は、単なる技術的な指示ではありませんでした。物理学的な視点と、声楽家としての感性。そして、一人ひとりの「自然体」を大切にする姿勢。

小幡さんの音楽哲学を、10のキーワードからご紹介します。
1. 音楽の原点:マニアックに突き詰めた金沢の夏休み
音楽の原体験は、小学生時代に出場した合唱コンクールにあります。夏休み返上で毎日学校へ通い、仲間と「声が揺れている」「響きがどうだ」と、微細な変化をマニアックに面白がって突き詰めていた時間。その時の、声がホールに届く感覚が、今の探究心の出発点となっています。
2. 技巧へのときめき:『ふるさとのヨーデル』の記憶
小学生で経験した『ふるさとのヨーデル』という曲。そこにあったヨーデル特有の技巧的な音の跳躍や動きが、子供心に音が動く面白さを教えてくれました。難しいことを楽しいと感じる感覚は、今も指導の根底に流れています。
3. 音楽の構造:リズムの「縦軸」と和声の「横軸」
物理学を専攻された小幡さんは、音楽を立体的な構造として捉えています。
「縦軸はリズムであり、全員が一点で合わせる鋭さ。対して、横軸は和声(ハーモニー)であり、音が重なり流れていく豊かさです。この両輪が機能すると、音楽としてまとまり、自然と響きが生まれます。」
4. 伴奏との一体感:リズムという軸を共有する瞬間
歌い手と伴奏者が、お互いの音をしっかり聴いているか。その呼吸が一致した瞬間に、アンサンブルは最高に噛み合います。技術を超えた先に、一体感が生まれる瞬間があります。
5. 指導の魔法:「おはじきをそっと置くように」
「おはじきをそっと置くように」
指導の中で、こうした比喩を用いることがあります。身体の動きを細かく指示するのではなく、イメージによって音のあり方を導いていく。そうした考え方に基づいています。
その一言をきっかけに、声の出方が変わることもあります。届くイメージは人それぞれなので、その場で浮かんだ言葉を選んでいます。
6. 脱力と制御:力みに頼らない響き
力みに頼らずに歌うこと。それは単なる脱力ではなく、精密なブレスコントロールの結果です。歌の技術は、身体の使い方によって現れます。
体に無理な力が入っていないか、自ら気づき、修正していくことでよりよい発声に近づきます。
7. 日本語へのこだわり:一音一音の「ポジション」
特に日本語の「は行」などは、確かな息のプッシュがなければ現れません。どこに息を当てるかというポジションへのこだわり。こうした視点があるからこそ、言葉が波となって聴き手に届きます。
8. 言葉の波:メトロノームを超えた推進力
「言葉は波である」という考え。一番高い部分をどこに設定し、どう繋げていくか。言葉の持つ波形を意識することで、音楽に機械的ではない、自然な推進力が生まれていきます。
9. 理想の合唱:個性を活かした「調和」
理想とするのは、枠に収まることではありません。「協調の中で、それぞれの個性を活かすこと」。一人ひとりの声が自分の色のまま他者の声と響き合う、多様なハーモニーを追求しています。
10. 究極の目標:自然体であることの強さ
何より大切にしているのは「自然体であること」です。無理に作り込んだ声ではなく、その人が本来持っている「自然な声」を解き放つこと。飾らない声がイメージと結びついた時、真実の響きが宿ると信じています。
【取材を終えて】
小幡さんの言葉は、歌い手の心に種をまくようなものでした。その種が芽吹き、合唱団全体の響きへと変わっていく光景を目にしました。
一方で、
「こんなこと言っといて、自分でできてないけどね」と軽やかに笑う姿や、俳優や声優の声を自在に模される場面もあり、その振れ幅の大きさに思わず笑ってしまう瞬間もありました。

論理と感性、そしてどこか遊び心のある人柄。
そのすべてが重なったときに生まれる「響き」と「調和」が、これからも様々な場所で育まれていくのだと思います。
小幡 健太郎(おばた けんたろう) プロフィール
1977年生まれ、石川県金沢市出身。筑波大学で物理学を専攻し、武蔵野音楽大学で声楽を学ぶ。小学4年時のコンクールでの落選を糧に、翌年優秀賞を受賞した経験が音楽の原点。現在は合唱団「はーもにーかなざわ」の指揮者を務める傍ら、板橋区議会議員としても文化芸術の振興に尽力している。

小幡さんが指揮を務める合唱団「はーもにーかなざわ」の演奏会が開催された、
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